murakami Labo.

村上研究所

対岸の彼女

公演の稽古のときからちょっとづつ角田光代の『空中庭園』を読んでて、先週読み終えて、これはこれでなかなか凄いんだけど、その次に読んだのが『対岸の彼女』で、これが素晴らしい。
ちょうど今の自分がこういうのを読みたかったんだ!と読みながら思ってた。居心地のいい体験だった。
 
自分が今まで苦しみ続け、そしてこれからもあまり大きく変わらないに違いないこと。それは、恋愛もそうだけど、やはり「人間関係」。数多くの人のなかで、自分はどう見られているのか気になる。職場だと俺だけこんなに早く帰って大丈夫かとか、女の子と一緒にいて相手は退屈してないかとか、もっとトークがうまくなったほうがいいんじゃないかとか。
しかし最も喜びを感じるのもやっぱり人間関係なのだ。数十人が集まって1つの舞台に向かうこと、最初にあった距離感がだんだん縮まってゆくこと、思い切った意見を言っても大丈夫になること。距離感の遠かった人から突っ込まれるようになること。自分の人生の喜びの大半はそんなことで成り立っている。
 
この本は、30代半ばの女性が娘と一緒に公園にいるところから始まる。仕事を辞めて何年か経ってて、でも30代で結婚したから公園に遊びに行っても周囲の若い主婦さんの間では浮いてしまって、娘さんも友達を作るのが苦手な子のようだ。そんな不器用な人が、再び新しい仕事を探し出す。
最初はいくつも面接に行って不採用になってしまうが、たまたま同じ大学が出身の女性が社長をやっている会社の面接が通った。
その主婦(小夜子)の現代の話と、女性社長(葵)の高校時代の話が、ふたつ並行して進んでゆく。
 
日常のちょっとした出来事が丁寧に描かれていて、文章が全部「詩」として成り立っているみたいだ。
物語としても面白いけど、それよか人生のバイブルとして、この先何度も読み返すに違いない。
そんな本でした。
 

対岸の彼女 (文春文庫)

対岸の彼女 (文春文庫)