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村上研究所

『栄養学を拓いた巨人たち』

栄養学を拓いた巨人たち (ブルーバックス)

栄養学を拓いた巨人たち (ブルーバックス)

 
『食の本棚』に紹介されていたなかで気になったので読んでみた。2013年4月に第1刷発行。
 
「栄養学」というジャンルは学校でも学科としては学んだことがなくてイメージが湧きにくい。私の想像では給食や食事の栄養バランスを考える人。糖尿病とか病気になってしまった方の食事を考える人。おもに、おばちゃん。健康にうるさいおばちゃん。そういう専門家を育成する学問なのかな、という予想ではあったのだが、この本を読んだあとは変わった。昔は人が口にする食糧が偏っていて、それによって病気が発生し、死人が発生していたのだ。病気の原因を探り、食べ物により病を防いでゆく人々のドラマを描いたのが本書である。
 
冒頭は熱とエネルギーの等価性や熱力学がどのように生まれたか、の説明から入る。いわゆる食品のカロリー計算の元になる話だ。その説明よりもむしろその研究者たちの恋愛とか、家族が崩壊したとか、そういった人間ドラマの部分のほうが泥くさくて面白い。
 
いちばん面白かったのが第3章「病原菌なき難病」だった。昔は病気の原因になっているのは必ず病原菌であると信じられていた。病原菌ではなく、食べ物に含まれる微量成分が足りないとは想像もつかなかったそうだ。難病ペラグラの原因を突き止めたゴールドバーガー、日露戦争時代に脚気の原因をみつけた高木兼寛、その成果を無視し続けた森林太郎(鷗外)のエピソードの箇所が強烈で、この本のなかではいちばん面白かったところだ。
 
栄養学はしかし当時は「足りていない栄養素を探っていく」形で発展していったのに対し、現代は「脂肪取りすぎ!」とか「糖分取りすぎ」とかそっちの方面で病気になる人々が多いはず。栄養学の専門家たちはまた別のたたかいに挑んでいることだろう。